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第2回 便秘症治療における薬物療法の位置づけと刺激性下剤の有用性

尾髙健夫先生 尾髙内科・胃腸クリニック 院長
千葉大学 光学医療診療部 非常勤講師
尾髙 健夫 先生

便秘症状ではどのような症状が多いのでしょうか

尾髙先生:

千葉大学附属病院に勤務していた当時、便秘症の患者さんとそうではない患者さんの両方に「便秘症で一番つらい症状は何か」という質問をしたことがあります。その結果、便秘症ではない患者さんのほとんどが「排便回数の減少」を挙げたのに対し、便秘症患者さんでは「排便困難感」との回答が最も多く挙げられました(図1)。具体的な訴えとしては、「気持ちよく排便できない」「排便時に痛みがある」「排便に時間がかかる」「いきまないと排便できない」などでした。すなわち、気持ちよく排便できることを求めていることが分かりました。

図1 便秘に関する不定愁訴

図1 便秘に関する不定愁訴

尾髙健夫:第9回千葉消化管運動機能研究会 2008 発表

また、この調査では、便秘症患者さんの6割以上が「排便困難感」「排便回数の減少」「残便感」の3症状すべてを有していることも分かりました。これらの症状は、機能性消化管障害の1つである機能性便秘の診断基準であり、まさにそうした病態が増加していることを実感させる結果でした。

若年層ではIBS便秘型も増えているとお聞きしています。機能性便秘との違いを教えて下さい

尾髙先生:

かつて便秘症は、痙攣性便秘と弛緩性便秘の2つに分類されていた時代がありました。痙攣性便秘とは、腸の収縮機能が過剰に働いて蠕動運動が障害され、便の輸送能が低下するために起こる病態とされ、これがIBS便秘型に相当します。一方、弛緩性便秘は腸そのものの機能が低下した病態であり、機能性便秘に相当します。機能性便秘は直腸のセンサーが鈍磨し、便が直腸まで降りてきても排便のスイッチが入らず、便が溜まる病態です。しかも、長期化すると奥まで便が溜まるようになります。

便秘症患者さんにリング状のX線非透過マーカーを連続服用していただき、その残存箇所をレントゲンで観察する実験を行ったところ、結腸輸送能が低下しているIBS便秘型では、マーカーが近位大腸領域から奥にかけて分布しており、直腸肛門における排便反射が障害されている機能性便秘では、直腸S状結腸領域にマーカーの集積が観察されます(図2)。

図2 便秘症患者における便滞留

図2 便秘症患者における便滞留

尾髙健夫先生ご提供

IBS便秘型も機能性便秘も内容物の大腸通過時間の遅延は同程度ですが、病態は以上のように異なります。したがって、病態の違いに配慮した治療を考える必要があります。これまでの検討をもとに、IBS便秘型と機能性便秘の違いを表にまとめましたので、参考にしていただきたいと思います()。

表 機能性便秘とIBS便秘型の差異

表 機能性便秘とIBS便秘型の差異

尾髙健夫先生 作成

便秘症治療薬の使い分けとその際の留意点について教えて下さい

尾髙先生:

便秘症治療では食事と生活習慣の改善が基本になりますので、薬物療法はそれに追加する治療に位置づけられます。薬物療法を開始する際は、いきなり排便促進作用が強い薬剤を選択するのではなく、まず便を柔らかくすること、便の性状を改善することを目標に、機械性下剤を優先して投与します。例えば、水分量を増やす酸化マグネシウム製剤や、便の量を増やす膨張性下剤、便への水分の浸潤を促す浸潤性下剤、便を物理的に軟便化させるカルメロースナトリウムなどが考えられます。また最近では、腸管の水分分泌を促進するクロライドチャネルアクティベイターも選択されることがあります(図3)。

図3 機能性便秘治療のフローチャート

図3 機能性便秘症治療のフローチャート

尾髙健夫先生 作成

しかし、そうした薬剤では便秘症状を十分に改善できないことが分かれば、刺激性下剤を頓用で処方します。ただし、刺激性下剤で下痢や腹痛を来す患者さんには、消化管運動改善薬で対応します。最終的に、内服薬で便秘が解消されない重度便秘症の患者さんには、坐剤や浣腸液を頓用で処方することになります。

いずれの場合も、食事と生活習慣の改善を並行して進めることが重要です。また、刺激性下剤や坐剤、浣腸液は、連用すると耐性を生じ、直腸の排便反射がますます減弱するリスクがあるので十分な注意が必要です。

刺激性下剤の有用性と注意点について教えてください

尾髙先生:

私が消化器内科医を対象に行ったアンケート調査では、9割が刺激性下剤を汎用していることが分かりました。刺激性下剤は就寝時に服用すると、翌朝に腸収縮が起こり、切れのよいすっきりとした排便が可能になります。それが結果として患者さんの満足度につながるため、多くの医師が第一選択にするのだと思います。

多くの刺激性下剤の主成分であるセンノシドは、大腸平滑筋への刺激を介して、排便に直結する高圧性伝播性収縮を誘導することが分かっています。高圧性伝播性収縮とは食残渣の緩徐な腸内輸送を促す蠕動運動とは異なり、起床時や食物をたくさん摂取した時などに起こる生理現象で、大腸を空にしようとして上行結腸から加えられる200mmHgを超える強い圧力です。ただ、その作用機序は未だ明らかにされていないため、刺激性下剤に設定されている用量は、あくまで経験的に決められたものといえます。そこで、当初は低用量から開始し、患者さんとのコミュニケーションにより服用後の効果や副作用を確認しながら、用量調整を行うことが重要だと考えます。

緩下剤のアローゼンについてはどのような印象を持たれていますか

尾髙先生:

アローゼンの最大の利点は、半量や3分の1量などの用量調整が簡便にできる顆粒であることで、それは前回もお話ししました。そうした利点に加え、アローゼンを少量で開始すると、排便回数は増えなくても、便そのものの性状が柔らかくなることを私はしばしば経験しています。アローゼンはセンノシドを多く含むマメ科の植物であるセンナの実や葉をすり潰し製剤化しています。便の性状を改善するとの報告はあまりないと思いますが、アローゼンがセンナそのものの生薬であれば、センノシド以外の成分も当然含まれており、それが新たな作用を発揮する可能性はあると思います。医師として非科学的な話はすべきではありませんが、経験的には便の性状改善にも期待できます。そのため、私はアローゼンの少量投与を便秘治療の選択肢の1つに加えています。

便秘症治療の目標は、患者さんのQOL改善にあると思います。食事や生活習慣の見直しから始め、患者さんのQOLに配慮した薬物療法を時には加え、できるだけ自然に近い排便を実現できるような治療を今後も考えていきたいと思います。