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第1回 QOLに配慮した便秘症治療の必要性

尾髙健夫先生 尾髙内科・胃腸クリニック 院長
千葉大学 光学医療診療部 非常勤講師
尾髙 健夫 先生

はじめに、先生のご施設の診療内容とご専門領域についてお聞かせください

尾髙先生:

当院は、千葉県の主要駅である津田沼の新しい多目的エリア「奏(かなで)の杜」に、本年10月に開業したばかりの消化器内科クリニックです。私が長年勤務していた千葉大学医学部附属病院は患者数が多く、診療時間が限られることから、患者さんのお話に十分に耳を傾けられないことを申し訳なく思っていました。そこで、自分の施設であればきめの細かい診療ができると考え、開業した次第です。

尾髙内科・胃腸クリニック

私の専門は消化器領域全般ですが、近年は増加が著しい機能性消化管障害の診断と治療に情熱を持って取り組んできました。その過程では、がんなどの器質的な病変を見逃さないことを念頭に置き、重要な観察技術となる内視鏡検査にも力を入れてきました。クリニックという患者さんに最も身近な医療機関としての役割を果たすために、重大な疾患の鑑別とともに、患者さんの日常のQOLの改善・維持を常に心がけていこうと考えています。

日常診療において、便秘症の患者さんはどの程度おられますか

尾髙先生:

便秘を主訴として受診される患者さんは、当院の消化器疾患の約1割にとどまります。その一方で、患者数が最も多い胃食道逆流症(GERD: Gastroesophageal Reflux Disease)や機能性ディスペプシア(FD: functional-dyspepsia)などの機能性消化管障害の患者さんを問診すると、実は便秘症状もお持ちの方がかなりおられます。いわゆる隠れ便秘の方たちです。ですから、隠れ便秘も含めると、当院の外来患者さんの20~30%は便秘症状を有していると思われます。

隠れ便秘の患者さんに、なぜ便秘のことを相談されなかったのかとお聞きすると、「便秘は体質であり、わざわざ先生に相談することではないと思っていた」と多くの患者さんがおっしゃいます。しかも、そうした患者さんのほとんどは、薬局で購入したOTC便秘薬を使っておられます。つまり、OTC便秘薬を簡単に入手できる環境が、隠れ便秘を増やす一因になっていると考えています。便秘症を適切に治療することにより患者さんのQOLは明らかに向上します。診療科の違いを問わず、隠れ便秘の掘り起こしが必要なのかもしれません。

便秘症治療の必要性について先生のお考えをお聞かせください

尾髙先生:

東北大学のグループは、排便が1日1回未満の人は1日1回以上の人に比べ、結腸がんの発生リスクが有意に高いことを報告しています(図11)。私の日常診療における大腸内視鏡検査でも、がんの発見はまれですが、腫瘍性ポリープは高頻度に観察されます。したがって、発がんのリスクは念頭に置くべきだと考えています。

図11) 排便頻度による結腸癌新規発生相対リスク

図1 排便頻度による結腸癌新規発生相対リスク

40-64歳の宮城県居住者41,670例(男性20,044例、女性21,626例)を対象に、自己記入式調査票を各居住者に配布・回収した後、自治体の人口台帳を用い追跡調査を実施した(調査期間:1990年6月~1997年12月)

もう1つはQOLの低下です。便秘症を長く放置している患者さんは症状に慣れてしまい、QOLが低下していることに気付いていない傾向があります。実際に、QOLの評価尺度であるSF-36を用いた海外の研究でも、便秘症患者の身体的健康感および精神的健康感が、健常者に比べて有意に低下していることが報告されています(図22)

図22) 便秘症患者の健康関連 QOLスコア(SF-36)

図2 便秘症患者の健康関連 QOLスコア(SF-36)

フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、米国、韓国、ブラジルの便秘症患者群1,435例とコントロール群(非便秘症例)1,435例について、SF-36を比較。

こうした知見を踏まえ、私自身も患者データをもとにQOL低下の原因を解析したことがあります。その結果をチャートにまとめたところ、便秘症が慢性化すると腹部症状や排便障害がより悪化することが確認できました(図3)。しかも腹部症状や排便症状の増悪により、「毎日すっきりしない」という不快感だけでなく、「隠れた疾患があるのではないか」「外出中に突然便意を催したらどうしよう」などの不安感も強くなるようです。こうした不安感は、食欲の低下、社交性の低下、外出機会の減少などに繋がりますので、最終的には、精神的な健康感を大きく損なうことになります。したがって、便秘症を放置せず、適切に治療することはきわめて重要だと考えます。

図3 便秘症慢性化とQOLの低下

図3 便秘症慢性化とQOLの低下

尾髙健夫先生 作成

便秘症の治療方針をお聞かせください

尾髙先生:

患者さんのQOLに配慮し、私はできるだけ腸に刺激を与えない治療を心がけています。そこで薬物療法の前に、まず食事と生活習慣の改善を指導します。腸の蠕動運動は十分量の便が形成されないと低下しますし、便意は十分量の便による伸展刺激を直腸が受けることで催します。そこで毎日しっかり朝食を摂り、昼食・夕食も規則正しく採ることが重要です。つまり、ダイエットも便秘の原因になるのです。このほかにも、水分や植物繊維の十分な摂取、脂肪分への注意、十分な睡眠や運動後の休息の必要性など、便秘症の改善に向けた日常生活の留意点がいくつかあります。これらを一覧にまとめたので、是非ご確認いただきたいと思います()。

そして、食事と生活習慣の修正だけでは便秘症状が十分に改善されないことが確認されれば、薬物療法を開始することになります。

表 便秘症患者の生活習慣(食事、生活)の改善

表 便秘症患者の生活習慣(食事、生活)の改善

尾髙健夫先生 作成

アローゼンをどのように評価されていますか

尾髙先生:

便秘症の治療薬には服用後速やかに排便を促す峻下剤と、比較的穏やかに作用する緩下剤があります。センナを主成分とするアローゼンは刺激性下剤に位置づけられますが、緩下剤とされています。すなわち、就寝前に服用することで腸の蠕動運動が緩徐に促され、翌朝に自然な生理作用に近い排便が可能になる治療薬と言えます。しかし、刺激性下剤に変わりはないので、患者さんによっては軟便や下痢症状を生じることもあります。ただ幸いにも、アローゼンは用量調整が簡便にできる顆粒製剤です。そこで私は、体格の小さい患者さんや比較的軽い便秘症状であれば、アローゼンを半量や3分の1量に調整して投与しています。そうすることで、刺激性下剤でしばしば問題となる腹痛や泥状・水溶性便を呈することなく、便秘症状が改善されることをよく経験します。すなわち、患者さん個々の症状に合わせた便秘症治療が可能なことが、アローゼンの利点ではないかと考えています。

次回は、機能性便秘とIBS型便秘の違いや薬物療法の手順などについて、お話ししたいと思います。

参考文献

  1. 1)Watanabe T. et al: Eur J Cancer. 2004 Sep; 40(14): 2109-15.
  2. 2)Wald A. et al.: Aliment Pharmacol Ther. 2007, 15; 26(2): 227-36.