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第1回 スーパー便秘

安部達也先生 くにもと病院 肛門外科診療部長
安部 達也 先生

スーパー便秘とは?

便秘のタイプはさまざまですが、直腸性便秘のなかでも、強い便意があるにもかかわらず、便を排出できないのが「スーパー便秘」です。スーパー便秘には、便を排出しようとしても肛門が締まったままで緩まないタイプ(骨盤底筋協調運動障害に起因するスーパー便秘)と、直腸に生じたポケットに便が溜まって排出できないタイプ(直腸瘤に起因するスーパー便秘)があります。

スーパー便秘には、「排便困難」、「残便感」、「排便回数は少なくない」という3つの特徴があり、便意はあるものの、息んでも便を排出できない、あるいは排出しにくく、排出できても少量で残便感があるため、患者のQOLは著しく低下します。

便秘患者562人のうち108人(19.2%)が直腸性便秘、そのうち70人(64.8%)が骨盤底筋協調運動障害のスーパー便秘であるという報告もあります1)

便秘の分類とスーパー便秘の原因

便秘は機能性便秘と2次性便秘に大別されます(図1)。機能性便秘のうち慢性便秘は、さらに弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘に分けられます。

図1 便秘の分類

図1 便秘の分類

弛緩性便秘は、大腸の結腸部分の緊張低下や蠕動運動の減弱など、大腸平滑筋の収縮能が低下した病態です。便の通過時間が延長するため、腸管が水分を過剰に吸収してしまい、便が硬くなります。

痙攣性便秘は、ストレスや自律神経の乱れ、特に副交感神経の過緊張が原因となって、結腸が痙攣を起こして収縮するために、便の輸送が障害される病態です。

直腸性便秘は、直腸まで便が輸送されたにもかかわらず、直腸壁の刺激感受性低下によって便意を感じない病態です。便意の抑制や下剤の乱用などによって生じ、排便反射が起こらないため、便が直腸内に留まり、硬くなります。直腸性便秘の原因は、器質性(直腸瘤、小腸瘤、直腸脱、直腸癌など)と機能性(加齢、中枢神経疾患、骨盤底筋協調運動障害など)に大別されます(表12)

表12) 便秘症の原因・病態別分類

表1 便秘症の原因・病態別分類

直腸性便秘がスーパー便秘となる主な原因は、直腸瘤と骨盤底筋協調運動障害で、前者は女性にのみ生じます。一方、いつ、どうしてスーパー便秘を発症するのかは明確には分かっていません。しかし、後述のバイオフィードバック(BF)療法によるリハビリテーションが有効であることから、何らかの後天的な要因が影響していると考えられます。例えば、排便を我慢して硬便になり、それを無理やり排出しようとして痔が生じ、排便時に痛みを伴うようになるため、意図せぬ肛門括約筋の収縮が起こり、スーパー便秘になるといった機序が推定されます。

スーパー便秘の診断

スーパー便秘を見逃さないためのポイントは、便秘の患者さんのなかでも「強く息まないと便が出ない」、「何度もトイレに行く(空振りが多い)」、「トイレに入っている時間が長い」、「手で肛門の周りを押して排便する」、「便が硬い」といった訴えのある場合、スーパー便秘を強く疑ってかかることです。

スーパー便秘の診断には、直腸肛門診、腸管通過時間測定検査、直腸肛門内圧検査、排便造影検査などを行います(表23)。直腸肛門診では、肛門疾患、術後狭窄、腫瘍、残便などの状況を観察するとともに、安静時、収縮時、息み時において、排便関連筋群が正しく協調運動を行っているかを確認します。恥骨直腸筋の弛緩や会陰下垂が認められない場合は、スーパー便秘の可能性が高いと考えられます。排便造影検査(Defecography)は、疑似便を用いて排便の様子をX線撮影し、透視画像で確認する検査法で、スーパー便秘の診断には不可欠です。排便造影検査では排便時の直腸や肛門の動きがわかり、直腸瘤がある場合は、排便しようと息んだ際に、直腸の前壁が膣に向かって突出します。加えて、肛門の締まり具合を調べる直腸肛門内圧検査も重要で、スーパー便秘では排便時に肛門が緩みません。

表23) スーパー便秘の検査法

表2 スーパー便秘の検査法

スーパー便秘の基本治療と薬物療法

スーパー便秘に対する治療の基本は、食事の内容、運動、睡眠などの生活習慣をはじめ、排便のタイミング、排便姿勢、排便時の呼吸法などを改善することです2)。排便のタイミングとして、まず食後30分、1日2回、5分を限度に排便を試みます。排便時の息みの強さは、最大限の息みの5~7割程度が望ましいとされています。理想的な排便姿勢は図24)のとおりで、洋式よりも和式のトイレのほうが排便には有利です。また、横隔膜呼吸により上腹部がマッサージされて副交感神経が刺激されることから、排便時の呼吸法としては横隔膜呼吸法が有用です。

図24) 排便のコツ

図2 排便のコツ

薬物療法では、スーパー便秘の患者さんの多くは、結腸通過遅延型便秘(STC)に分類される弛緩性便秘などを合併していることから、prokineticsが有用であり、直腸収縮力の増加、さらには肛門の弛緩が得られる薬剤があれば理想的です。下剤は膨張性下剤、浸透圧性下剤、刺激性下剤の順に使用することが推奨されます(図35)

図3 下剤の選び方

図3 下剤の選び方

スーパー便秘の特異的治療法

骨盤底筋協調運動障害は、排便時に本来は緩むはずの骨盤底筋が十分に緩まない、あるいは収縮してしまう病態です。骨盤底筋協調運動障害に起因するスーパー便秘には、バイオフィードバック(BF)療法が有効とされています。BF療法はオペラント動機づけの学習理論をもとに、工学機器を利用して自覚症状の改善を図る治療法で、便失禁をはじめ、不整脈、自律神経失調症、気管支喘息、高血圧などの治療に用いられています。スーパー便秘に対するBF療法には、直腸バルーンを用いた感覚訓練、括約筋の収縮訓練、直腸の拡張刺激に対する括約筋の協調運動など複数の方法があり、患者さんに自身の肛門の動きを意識してもらうとともに、排便時に骨盤底筋にいかに無理な力がかかっているかを実感してもらい、力の抜き方を体得することでスムーズな排便を促します。例えば、直腸バルーンを用いたBF療法では、まず左側臥位で直腸にバルーンを挿入し、簡易便器に座って排出を試みます。このとき、骨盤底筋をリラックスするよう伝え、正しい排便姿勢や呼吸法を指導します。そして、バルーンを少し牽引して排出を補助し、徐々に排出のコツを掴んでもらいます。

一方、直腸瘤に起因するスーパー便秘で、直腸に生じたポケットが大きい場合には手術が必要です。直腸瘤は前述のとおり、女性に特有のもので、加齢や出産、子宮摘出などによって、膣と隣り合った直腸の膜が弱くなり、息んだ際に便の圧力によって直腸の壁が膣に向かってポケット状に膨らむことで生じ、そこに便が溜まってしまいます。直腸瘤の手術では、直腸にできたポケットの前に新たに壁をつくることで、直腸と膣の間を補強します。手術後は、排便時に息んでも直腸の壁が膣に向かって突出することはなく、直腸にポケットが生じなくなります。

近年、わが国の便秘の有訴者数は増加しています。平成22年国民生活基礎調査によると、人口1,000人あたり、男性は24.7人、女性は50.6人で、男女ともに加齢に伴って増加しています。急速に高齢化が進むわが国では、便秘の有訴者の増大が推測され、その治療の重要性は今後ますます高まると考えられます。便秘のなかでもスーパー便秘は患者さんのQOLを著しく低下させます。スーパー便秘を見逃さないためにも、可能性のある患者さんに対しては積極的に検査を勧め、適切な治療を行うことが重要です。

参考文献

  1. 1)荒木靖三先生(くるめ病院)ご報告
  2. 2)味村俊樹: 鹿児島市医報 51(2):29-37, 2011
  3. 3)Khaikin M, et al.: World J Gastroenterol 12(20):3168-3173, 2006
  4. 4)前田耕太郎 編,徹底ガイド排便ケアQ&A(総合医学社);神山剛一 角田朋良 著: p191~192,2006
  5. 5)Tramonte SM, et al.: J Gen Intern Med 12(1):15-24, 1997