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エキスパートによる便秘の病態・薬物療法

便秘の薬物療法

監修武田宏司先生
(北海道大学大学院薬学研究院 臨床病態解析学研究室 教授)

便秘とは

便秘とは、便が腸管内に長期間滞留し、排便回数や量が減少した状態のことです。便の滞留時間が長いため、水分が過剰に吸収され、便が硬くなっているケースがほとんどです。排便回数や量の個人差、あるいは個人でも食事内容や量の変動が大きいため、厳密な便秘の定義は定められていませんが、実臨床では、3~4日以上排便がない程に排便回数が減少、便量が35g/日以下にまで減少、乾燥した硬い便が排泄、排便回数が少なく腹部膨満感や腹痛があるなどの状態で排便が困難な例を便秘とみなします。なかでも、排便回数の減少は、便秘を判定するのにわかりやすい目安です。

便秘は病因別に、腸管自体の器質的異常や腸管外臓器の病変が及ぼす圧迫・浸潤により生じる器質性便秘、器質的異常以外の原因により生じる機能性便秘に分類されます。慢性的な機能性便秘は常習性便秘と呼ばれ、直腸性便秘(習慣性便秘)結腸性便秘(弛緩性便秘)、痙攣性便秘の3病型があります(便秘の病態 参照)。

大腸内容物の移送と便の生成

口から摂取した食物は、口腔から食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸)まで、全長9mもの消化管を移送されていく過程で消化・吸収され便となります。

胃から十二指腸で吸収されやすい形に分解された食物は、小腸で栄養素が吸収されます。そして小腸通過後に残った老廃物が便の材料となります。小腸から移行してきた老廃物は、はじめは液状ですが、大腸を通過する過程で腸内細菌による発酵・分解を受けて便になっていきます。

通常、食物とともに経口摂取される水分の量は1日約2Lで、さらに唾液1L、胃液2L、胆汁1L、膵液2L、十二指腸液1Lが加わり、1日8~10Lもの水分が小腸に流入します。そのうち約80~90%が小腸で吸収され、残りの水分もほとんどが大腸で吸収されます。その結果、便とともに排泄される水分は1日約0.1~0.2Lです。

食物は24~72時間かけて消化管内を移送し排便されると言われていますが、大腸内容物の腸内移送時間と形状は、食事内容、大腸の運動機能、吸収能力、精神状態、運動習慣の有無によって変化し、便秘のリスクが高まります。生活リズムや食習慣を保ち、適度な運動を心がけることが、便秘を予防し治療する上で重要です。

排便のメカニズム

排便には多くの筋肉や神経系が関与しています。大腸では、大腸内容物を肛門側に向かって送る蠕動運動、大腸内容物と消化液を混ぜ合わせる分節運動、蠕動運動と逆方向の動きの逆蠕動のほか、大腸内容物をS状結腸および直腸へ一気に送る強力な蠕動運動(大蠕動)などの腸管運動が認められます。

食物や飲料の摂取により胃が刺激されると、反射的に大腸の蠕動運動は亢進します。この反応を「胃・結腸反射」と呼びます。胃・結腸反射で生じた蠕動運動によりS状結腸に貯留していた便が直腸へ送り込まれると、直腸壁が伸展され、この刺激が脊髄上行路の知覚神経を介して大脳皮質の知覚領域に達し、便意が生じます。便意が生じると、直腸の蠕動運動、肛門管を取り囲む内肛門括約筋および外肛門括約筋の弛緩、腹圧の亢進が起こり、便は体外に排泄されます。この便意によって起こる反応を「排便反射」と呼びます(図2-1)。

直腸内肛門括約筋は、自律神経(交感神経系・副交感神経系)と直腸に局在する壁内神経叢の支配を受け、反射的に運動します。交感神経系は腸管の運動を抑制し、副交感神経系は腸管の蠕動運動を亢進させて分泌液を増加させます。一方、肛門側に位置する外肛門括約筋は意識的に緊張・弛緩を調節できます。

大腸運動を司る自律神経は中枢神経からの強い支配を受けるため、疲労やストレスは大腸運動に強い影響を及ぼします。大腸運動の制御に関わる主な神経伝達物質はセロトニン(5-HT)で、人体内の5-HTのうち約90%が消化管粘膜に存在すると言われています。

図2-1 排便に関わる神経系 排便のメカニズム
図2-1 排便に関わる神経系 排便のメカニズム

便秘の薬物療法

薬物療法前に行う生活習慣改善

器質性便秘の治療は、便秘の原因となる異常や疾患の治療が中心となります。

常習性便秘の治療は、まず規則正しい生活リズムの確立と食事療法を実行し、それでも改善しない場合に下剤などを用いた薬物療法を行います。便秘治療と言えば薬物療法と考えられがちですが、常習性便秘は生活習慣に起因することが多いため、その改善を優先します。

生活習慣改善で大切なポイントは、規則的な排便習慣です。3食きちんと食事を摂る、朝食後は便意がなくてもトイレに行く、トイレに行きたくなったら我慢しないことなどを心がけます。腸の蠕動運動は胃・結腸反射により亢進しますが、この反射は朝食後に強く生じると言われています。そのため、特に朝食を摂ることと朝食後にトイレに行くことは、排便習慣を確立する上で重要です。

食事療法では、食物繊維を多く含んだ食事を心がけます。食物繊維は消化されずに大腸まで送られ、大腸粘膜を刺激して蠕動運動を促します。また、食物繊維は水分を多く吸収して便を軟らかくし、便の量も増やします。

また、適度な運動は血液循環を活発にして大腸運動を促し、大腸内容物の腸内移送時間を短縮させるため、弛緩性便秘を改善します。さらに、運動は精神的ストレスを軽減させますから、痙攣性便秘にも有用だと考えられます。

便秘治療薬の種類と薬物療法

便秘治療薬は作用機序別に、刺激性下剤、浸透圧性下剤、膨張性下剤、クロライドイオンチャネルアクチベーター、浣腸薬に分類されます(表2-1)。

常習性便秘に下剤による薬物療法を行う場合は、症状の強度や薬剤作用の強度に応じて、薬剤の使い分けと用量調節を行います。ある下剤で効果不十分であれば、増量したり同機序の薬剤を追加したりせず、異なる機序の薬剤に変更する方がよいとされています。同一機序の薬剤を長期にわたり頓服すると習慣性を招くため、そのような使用は極力避けます。また、排便リズムが回復したら下剤は漸減した後、中止します。

浸透圧性下剤膨張性下剤を第一選択薬とし、効果不十分であれば、アローゼンなどの大腸刺激性下剤をなるべく短期間に限って使用します。

常習性便秘のなかでも、大腸運動が低下している弛緩性便秘には膨張性下剤および刺激性下剤を使用し、大腸の緊張が高まっている痙攣性便秘には、過敏性腸症候群の治療薬に加えて塩類下剤、膨張性下剤、浸潤性下剤のような非刺激性の薬剤を使用します。

一般に、器質性便秘には下剤は禁忌となります。また、マグネシウムを含む塩類下剤は高マグネシウム血症を来すことがあるため腎障害を有する方には慎重投与となります。

表2-1 便秘治療薬の作用機序別分類
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