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エキスパートによる便秘の病態・薬物療法

便秘の病態

監修武田宏司先生
(北海道大学大学院薬学研究院 臨床病態解析学研究室 教授)

便秘の病態分類

便秘は、器質的異常の有無や発症機序から、さまざまなタイプに分類されます。ここでは、便秘を病因別に分類します。

器質性便秘

器質性便秘は、腸管自体の形質の異常、あるいは腸管外臓器の病変が及ぼす腸管壁への圧迫・浸潤といった器質的異常により生じる便秘です。

器質性便秘を引き起こす先天性疾患には巨大結腸症などが、後天性疾患には特発性巨大結腸症、がんや炎症性腸疾患による大腸狭窄(機械的イレウス)、骨盤内腫瘍による圧迫などがあります。

機能性便秘

機能性便秘は器質的異常が見られない病態で、急性かつ一過性に生じる一過性単純性便秘と、生活習慣や精神的要因が関係する常習性便秘に大別されます。さらに、常習性便秘は、直腸性便秘(習慣性便秘)、結腸性便秘(弛緩性便秘)、痙攣性便秘の3病型に分類されます(図1-1)。

図1-1 便秘の病態生理
図1-1 便秘の病態生理
1)直腸性便秘(習慣性便秘)
便意の抑制、下剤・浣腸の誤用あるいは乱用により、直腸壁の刺激感受性が低下し、便意を感じない病態です。正常な排便反射が起こらず、便が直腸内に滞留します。女性に多く見られます。
朝食を十分にとる、朝のトイレタイムに時間的ゆとりを持つなどが改善策となります。
2)結腸性便秘(弛緩性便秘)
腸管の緊張低下や運動鈍化により腸内容物の通過が遅れ、腸管が水分を過剰に吸収してしまう病態です。高齢者、無力体質者、長期臥床者、食事摂取量の少ない人などに見られます。
食物繊維を多く含む食物を摂る、適度な運動をするなどが改善策となります。
3)痙攣性便秘
ストレス、自律神経の乱れ、副交感神経の過緊張などにより腸管運動が亢進し、結腸が過剰に収縮し、腸内容物の直腸への流入が遅れる病態です。腸管の痙攣性収縮のため便は兎糞状となります。過敏性腸症候群(IBS)の便秘型と考えられ、腹痛および抑うつや不安などの精神症状や多彩な身体症状を随伴することが多いという特徴があります。比較的若年に多くみられます。

症候性便秘

パーキンソン病、うつ病、低K血症、高Ca血症など他疾患の症状の一部として生じる二次的便秘のことです。大腸の器質的障害で生じる便秘は、器質性便秘に分類されます。

薬物性便秘

薬物の副作用により生じる便秘のことです。消化管の運動抑制など、便秘を誘発する副作用がある薬物は少なくありません。

また、下剤の頓服が習慣性となり、大腸粘膜の刺激感受性が低下し、便秘の悪循環に陥ることもあります。

大腸内容物の移送と便の生成

便秘を理解するためには、大腸内容物の移送および便の生成について理解する必要があります。

口から摂取した食物は、口腔から食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸)まで、全長9mもの消化管を移送されていく過程で消化・吸収され便となります。

胃から十二指腸で吸収されやすい形に分解された食物は、小腸で栄養素が吸収されます。そして小腸通過後に残った老廃物が便の材料となります。小腸から移行してきた老廃物は、はじめは液状ですが、大腸を通過する過程で腸内細菌による発酵・分解を受けて便になっていきます(図1-2)。

図1-2 大腸内容の腸内移送と便の生成
図1-2 大腸内容の腸内移送と便の生成

腸内には、500~1,000種類以上にわたる、100兆個もの腸内細菌が住みついており、便のもととなる老廃物を分解・発酵させます。小腸までに消化されなかった糖質は、これら腸内細菌により発酵され、短鎖脂肪酸が生成するほか、水素、メタンなどのガスが発生し、たんぱく質や脂質は腸内細菌の働きで分解され、硫化水素などの臭気のある物質が発生します。一方、腸内細菌のなかでもビフィズス菌や乳酸菌は、ビタミンB1、B2、B6、B12、K、葉酸の産生、がんの予防、腸の働きの活性化など、身体にとって有用な役割を担っており、善玉菌と呼ばれます。

通常、食物とともに経口摂取される水分の量は1日約2Lで、さらに唾液1L、胃液2L、胆汁1L、膵液2L、腸液1Lが加わり、1日8~10Lもの水分が小腸に流入します。そのうち約80~90%が小腸で吸収され、残りの水分のほとんども大腸で吸収されます。その結果、便とともに排泄される水分は1日約0.1~0.2Lです。

食物は24~72時間かけて消化管内を移送し排便されると言われていますが、大腸内容物の腸内移送時間と形状は、食事内容、大腸の運動機能、吸収能力、精神状態、運動習慣の有無によって変化します。

排便のメカニズム

便秘を理解するためには、排便のメカニズムも知る必要があります。

排便には多くの筋肉や神経系が関与し、腸内容物の水分吸収とそれに伴う体積の縮小、輸送を行う腸管の自動運動、便意を意識して排便を促進する作用などが介在しています。

大腸では、大腸内容物を肛門側に向かって送る蠕動運動、大腸内容物と消化液を混ぜ合わせる分節運動、蠕動運動と逆方向の動きの逆蠕動のほか、大腸内容物をS状結腸および直腸へ一気に送る強力な蠕動運動(大蠕動)などの腸管運動が認められます。

食物や飲料の摂取により胃が刺激されると、反射的に大腸の蠕動運動は亢進します。この反応を「胃・結腸反射」と呼びます。胃・結腸反射で生じた蠕動運動によりS状結腸に貯留していた便が直腸へ送り込まれると、直腸壁が伸展され、この刺激が脊髄上行路の知覚神経を介して大脳皮質の知覚領域に達し、便意が生じます。便意が生じると、直腸の蠕動運動、肛門管を取り囲む内肛門括約筋および外肛門括約筋の弛緩、腹圧の亢進が起こり、便は体外に排泄されます。この便意によって起こる反応を「排便反射」と呼びます。

直腸内肛門括約筋は、自律神経(交感神経系・副交感神経系)と直腸に局在する壁内神経叢の支配を受け、反射的に運動します。下腹神経を介した交感神経系は腸管の運動を抑制し、骨盤神経を介した副交感神経系は腸管の蠕動運動を亢進させて分泌液を増加させます。通常は交感神経系が優位になると直腸壁は弛緩し、内肛門括約筋が収縮して肛門は閉じていますが、排便反射が起こると内肛門括約筋が弛緩し、肛門が開きます。一方、肛門側に位置する外肛門括約筋は陰部神経の支配を受けており、意識的に緊張・弛緩を調節できます。

大腸運動を司る自律神経は中枢神経からの強い支配を受けるため、疲労やストレスは大腸運動に強い影響を及ぼします。大腸運動の制御に関わる主な神経伝達物質はセロトニン(5-HT)で、人体内の5-HTのうち約90%が消化管粘膜に存在すると言われています。